食事と記憶の関係、人の心(脳)の仕組みについての心理学が分かります。
私たちは、何をもとに「ご飯を食べよう」と決めていますか?
ある研究では、「人は食事をお腹が空いたからではなく、食べてからどれくらい時間が経ったかで決める」としています。
ペンシルバニア大学のポール・ロジンは「人は記憶をもとに食事をするかを決める」と考えました。
被験者は、短期記憶の保持が出来ず、普段から食事をしたことを忘れてしまう高度健忘症の男性。
食事は、食事の終了後10~30分後に提供し、計3回提供しました。
結果は、食事を出されるがままに、食べ続けたのです。
この疑問は、医療福祉の現場で働く人なら一度は考えたことあるのではないでしょうか。
認知症が進行すると、体験を忘れるためご飯を食べたことを覚えていないのです。
なかには、ご飯を食べても「早くご飯を出せ!」と怒る方もいます。
しかし、記憶がご飯を食べるかどうかを決めているなら、納得の反応です。
文中の気になったところを一部抜粋してみました。表現の違いをご了承ください。
Herman and Polivy(1984)は、通常の食事の終了には心理的認知的要因が重要である可能性があり、生物的な「満腹感は境界条件として極端で過剰な場合に機能する」とした。
人々は提供されたものを終えた時、適切な食事を食べたと信じた時に食欲を停止させる。
おぼえていない限り、適切な機会は訪れない。
人間には食事を定義する伝統と経験がある。
多くのアメリカ人は昼食にサンドイッチとチップス、飲み物であり、それが完了すると食事を終了する。
食事を提示することは食べる時間であることを意味している。
食べた者の記憶が食事終了の十分な理由であり、食事開始は適切な状況での食事の提示である。一部抜粋(英文和訳)
https://www.rotman-baycrest.on.ca/files/publicationmodule/@random45f5724eba2f8/pid1289.pdf
しかし、この理屈で考えてみると、認知症でトイレに行ったことを忘れる方にも言えそうです。
認知症の方で、実際に尿は出ないのに「トイレに行ってない」と頻回にトイレに行く方がいます。
尿意という生理的な刺激ではなく、行ったかどうかが行動を決めているのだとしたら。
食事とは違い、排泄を止める事はあまりせず、一日に何十回も行く方がいます。
もしかしたら、食事だってそうなのかもしれません。
認知症の過食と対応
日本認知症グループホーム協会顧問であり、川崎幸クリニックの杉山 孝博院長は認知症の方の過食について次のように述べてます。
認知症の方の中には、ある時期に異常な食欲を示す人が居る。
過食の時期は―人分を食べても空腹感が残っていて、「食べたこと」全体を忘れます。
認知症の2つの原則に以下があります。
- 「記憶になければ事実ではない」
- 「本人の思ったことは本人にとっては絶対的な事実である」
これにより、「おなかが空いてたまらない。今すぐ食べたい」と思って、食べ物を要求するのです。
食事の訴えには次のような対応策が有効。
- 「おいしいと言って食べていたでしょう」と食べ終わった器を見せて説明する。
- 「おなかがすいたのね。おにぎりがあるからこれを食べてね」と快く軽食を提供する
過食の時期の認知症の人を観察すると、次の傾向がある。
- 動きが非常に活発である
- 大量の排便をする
エネルギーの消費が多くて、栄養の吸収効率が悪いと考えれば、大量に食べる食べ方は異常ではなく、必要なカロリーを摂取しているにすぎない。
認知症ケアをされている家族や専門職は、食事で悩むケースをたくさん抱えていると思います。
杉山院長も述べていますが、際限なく食事を与え続けることではなく、あくまでも個別ケアとして見る視点が大切なのです。
参考書籍・文献
参考書籍
Rozin,P.,DOw,S.,Moscovitch,M.,&Rajaram,S.1998 What causes humans to begin and end a meal? A role for memory for what has been eaten, as evidenced by a study of multiple meal eating in amnesic Patients. Psychological Science,9,392-396 https://www.rotman-baycrest.on.ca/files/publicationmodule/@random45f5724eba2f8/pid1289.pdf
川崎幸クリニック杉山 孝博院長 認知症と過食・異食・拒食 (saiwaicl.jp)
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