上司になると部下にやる気をもって働いてもらいたいと思うでしょう
だからといって、絶えず指示したり、行動を監視したりする方法は逆効果になります。
無理に仕事を与えるだけでは、良い成果が返ってきませんし、大事な“人”という資本を失いかねないのです。
では、「もっと簡単にやる気になってもらえないか」と上司であれば一度は悩んだことがあるでしょう。
実は環境を変えたり、仕事の動機によってアプローチを工夫してみると、今まで自発的に動かなかった部下も動いてくれるようになるかもしれません。
この記事では、その方法をお話していきます。
勝手にやるようになる!?暗黙のコミュニケーション
「人の振り見て我が振り直せ」 「反面教師」 「人を以て鑑と為す」
このようなことわざがあるように、人は見て学ぶ能力を持っています。
私たちは日々、親や兄弟、学校、職場、テレビなどを通して学習しています。
心理学では、他人を観察しているだけで、自分の行動が変わってくることが分かっており、これを「モデリング」と呼んでいます。
見本を見て、無意識のうちに真似をしようと潜在的に学習しているのです。
ということは、相手を意のままに動かしたいなら、まずは自分が率先して動くことも大事だと言えます。
このモデリングは、暗示のひとつの技術としても使われています。
例えば、子どもに勉強させたい時や社員に仕事をしてもらいたい時、自らが真剣に取り組んでいる姿を見せると勝手にやるようになります。
このモデリングは、子どもの時代に盛んに行われますが、大人になっても効果を発揮します。
特に、大人の場合では「憧れている人」や「信頼を得ている人」の行動に対して、モデリングが働きやすくなっています。
そのため、モデリングを活用したい時は、仲良くなることや信頼感を高めるなどの準備が必要です。
モデリングに関して、次のような実験もあります。
カリフォルニア州立大学のスティーブン・グレイは、プロのバドミントン選手の映像を見せるグループと見せないグループに分けて観察させました。
その後、フォアハンドとバックハンドの打ち方を調べると、プロの動きを見たグループは上達していたのです。
職人の世界では「口で教えない。師匠の背中を見て学べ。」という風潮があります。
言葉で伝えきれない技術や態度は、目で見て体で覚えることも必要です。
カナダの心理学者であるアルバート・バンデューラは、「人は暴力をふるう他人を見ると攻撃的になる」という社会的な示範効果のモデリング理論を唱えました。
バンデューラは、攻撃的モデルがストレス解消にならず、むしろ攻撃行動を促進させると考えています。
この理論から言えば、反対に良い行いを見せれば、マナーや社会貢献を認識させることが出来ます。
日常的にみられるモデリングの場面としては、ゴミ拾いや献血に応じる場面などがあります。
どちらも、多くの人が参加していれば同調効果も相まって、「自分も同じようにしよう」と考えるものです。
ぜひ、育児や家事、恋愛、仕事などあらゆる場面で使える暗示の技術、モデリングを使ってトラブルなく人を変えてみてはいかがでしょう。
参考書籍
名前を変えるとやる気も変わる!?
やる気を出してもらいたい時に、環境を変えると意識が変化します。
方法としては、「部署の名前を変えること」があります。
部署名を変えることは難しいですが、部下の役割や担当の名前を変えられるかもしれません。
実際に、フェイスブック(Face book)のランディ・ザッカーバーグは次のように話しました。
ある部署を「コンシューマー・マーケティング」から「クリエイティブ・マーケティング」に変えたところ社員たちが皆やる気を出した。
※コンシューマー【consumer】とは、「消費者」や「購入者」という意味の英単語からきた用語です。ビジネスでは、主に製品やサービスを最終的に利用する個人を指して、「一般消費者」「最終使用者」といった意味で用いられます。
この方法を、心理学では「ラベリング」と呼んでいます。
「消費者の担当」から「クリエイティブ担当」に変わるだけで意識に違いが出て、発想豊かにクリエイティブな思考をするようになるでしょう。
さらに、以下のようなラベリングに関する研究もあります。
ペンシルバニア大学のロバート・クラウトは、誰かに「寛大な人」と評価されたあと、募金に応じるかを調べました。
すると、62%の人が快く応じ、何も言われなかったグループは47%でした。
実際にどう現場へ活かせばいいか。例えば、次のように担当名を変えてみてはどうでしょう?
清掃の担当を付ける場合
- 「衛生大臣」
- 「クリンネス」
- 「フロアの清掃管理者」
- 「フロアで一番のキレイ好き」
仕事のパフォーマンスを上げたい場合
- 「○○のプロ」
- 「○○の常任顧問」
- 「営業部の本田圭佑」
- 「○○技術の日本代表」
選挙に強かった「田中角栄さん」は、自身の所属会のすべての人に立派な肩書を付けていたと言います。
実際、裏方のサポートレベルはとても質が高かったとそうです。
私も、ひとつの作業に固執してしまう部下に対して悩んだことがありました。
周囲の指導も功を奏せず、放任されてしまっていたので、あえて「○○のプロになってほしい。これほど丁寧な人はいないから一つずつ目標を決めて、やっていこう。」と伝えたことがあります。
その後は、格段に作業に関する関心とやる気は感じることが出来ました。
このように、環境を変える手段として役割や名前を変える「ラベリング」を用いて、ひそかにやる気を出してもらう事ができるでしょう。
動機タイプ別!「成功を夢見る」or「失敗を恐れる」
冒頭のような疑問を持つ人は、現状の改善点を見いだし、積極的に仕事をこなすタイプなのでしょう。
しかし、反対に仕事へ消極的な人だからと言って、仕事が出来ないわけではありません。
両者の大きな違いは、仕事に対する動機が「成功を追及する動機」か「失敗を回避する動機」かです。
心理学者のアトキンソンは、モチベーションがこの二つの動機の強さで決まるとしました。
誰だって成功を夢見ますが、同時に「もしも失敗したら…」と悪い想像をしてしまうものです。
成功と失敗に対するリスクのバランスは人によって違いがあります。
このバランスで仕事の積極性も変わってくるのです。
例えば、宝くじを買う時のモチベーションも一緒です。
誰もが億万長者を夢見て買いますが、当たらないことも往々にしてあります。
ただ、「当たらなくてもまあいっか。」と失敗による損失が少ないと積極的になれます。
では、宝くじの値段が1組10枚で10万円の値段だったらどうでしょう。躊躇しますよね。
このように、成功と失敗のバランスで物事の動機が変わっているのです。
また、この動機に対しての個人差は、その人の自己効力感が関係します。
自己効力感とは、心理学者のバンデューラが提唱したもので、ある行動に対して「自分がどこまで出来るか」という考えの事を言います。
この自己肯定感は、その人の成功体験などによっても上下します。
先ほどの宝くじの例で言えば、一度も宝くじを外したことが無い人は10万円を払って買うかもしれません。
仕事に対して前向きになってもらいたいなら、成功と失敗のバランスを見直し、自己効力感を高める働きかけが大切になります。
「動機タイプ別」のやる気の出し方
「成功追及動機タイプ」のやる気の出し方
このタイプの方は、上手くいくか五分五分の課題に対してモチベーションが高まります。
失敗を過度に恐れず、上手くやればできるというバランスがチャレンジ精神を刺激します。
逆に、誰にでもできる課題にはやる気が出ません。
工夫や頑張り次第で課題のハードルを超える事が出来る高さが大事です。
「失敗回避動機タイプ」のやる気の出し方
「失敗回避動機タイプ」は、誰でも出来そうな課題であれば失敗に対する不安が少なく、やる気になれます。
課題をお願いするならサポートをして、不安を極力少なくしてあげれば頑張れるかもしれません。
そして、やり遂げる事が出来たら、自己肯定感を高める声掛けも忘れてはなりません。
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