最期に見せた人生で一番の笑顔

介護記事

こんにちは。介護健康心理カウンセラーのMasaです。
私の体験した事で今も胸に残る忘れられない思い出をお話したいと思います。

プライバシーを考慮しフィクションとぼかしを入れてお話します。


私がまだ看護学生で実習をしていた時の話です。
その時は在宅看護という実習科目でお家で暮らしている患者さんを訪問して医療を提供する実習をしていました。

夏の炎天下のなか、各ご家庭を決められた時間内で複数宅まわるという実習は地獄のトレーニングの様でした。

裏話ですが、訪問介護や訪問看護は訪問数が多く、制限内の移動は安っぽい自転車を精一杯漕ぎ、全速力で移動することがあり夏場のそれは地獄の訓練に感じれます。

私はとある60代くらいの優しそうな夫婦のご家庭を訪問しました。
旦那様が筋萎縮性側索硬化症(ALS)という病気を患い、顔全体をフェイスマスクでおおわれていました。

ALSとは簡単に言うと”全身の筋肉が萎縮して筋力が落ち、次第に動く事が出来なくなり、重篤な場合、さいごには呼吸する筋肉も衰え、死に至る病気です。”
そのため、主な死亡原因は筋肉の衰えによる呼吸不全です。
さらには、病気の予後も悪く人工呼吸器を使わないと2~5年で亡くなると言われています。

その方はベッドに座る事は出来ていましたが、主にベッド上で生活し機械で呼吸をサポートする程度に筋肉が弱くなっており、表情も筋肉の衰えからか乏しい印象でした。

髪の毛を洗ったり、食事や歯磨きもベッドで行っていました。

私は人となりを知りたくて夫婦とよくお話をしていました。
お酒の話題になり、私も好きだったため盛り上がりました。

「昔はよく飲んだんだよなあ」

「お父さんは日本酒が好きでね。一升瓶飲んじゃうのよ。」

「それは凄いですね。お好きだったんですね。」

「そうなんだよ。懐かしいな。」
「死ぬ前に酒が飲みてえなぁー。」

そう天井を見つめながらフェイスマスク越しにつぶやいたお父さんの目は潤んでいたように思いました。
お母さんもそんな言葉を聞きながら、悔しくも優しそうな表情をしていました。

ALSの場合、嚥下という飲み込む時に必要な筋肉も筋力低下により難しくなってしまい、誤って肺に入ってむせるなど食事にも神経や力を使います。
そのため、食事や飲み物はトロミを付けたり、食べやすい物するなどなんでも飲み食いできる状態ではありませんでした。

話を聞きながら当時、テレビのコマーシャルではとある女優が出演する「果莉那-Carina」というお酒がある事を思い出しました。
そのお酒はジュレのカクテル酒で新感覚を売りにしたお酒でした。

私は考えるようにしてその話を夫婦に伝えました。

すると、夫婦ともに表情を明るくして「ほんと!?」と驚いていました。

その姿を見て私は衝撃を受けました。

旦那様の表情が明らかに明るくなっており、筋肉の衰えもありながら
くしゃっとした表情で満面の笑顔を見せていました。

表情筋の衰えから乏しいはずの表情が変化していたのです。

末期に近い状態でベッドから動けず、死ぬ前に好きな事をする事が難しい方にとってそれが叶うかもしれないということは何よりも希望になったのでしょう。
しかし、喜びと同時に私は反省をしていました。
希望を与えたとしてもそれが叶うかどうかは約束できないからです。
もしも、叶えられなかったらぬか喜びとなり、悲しみを与えてしまうのではないか、そう考えていました。

何よりも私にはそれは決められないので「参考程度に、お医者さんと相談してみて下さい。」と伝え、時間になりその場を後にしました。

その後は、実習が終了し訪問する事は出来ませんでした。
どのようにしたのか、実際にお酒を飲めたのかはわかりません。
私のアドバイスは良かったのか、確かめる事は出来ません。

それからも気になってはいましたが、一番胸に残っていたのはご主人様の表情でした。

マスク越しの笑顔、筋肉が衰えた顔の表情、初めて見せた笑顔。
それが衝撃過ぎて頭から離れませんでした。

それからもう7年近く経ったのでしょうか。
多くの方を看取り、最後の表情を見てきましたが、あの笑顔は人生で一番今も強く残る表情です。

最期をよく思えるのも、笑顔に出来るのもその時の環境が大きく関わってきます。
関わる人達はその人にとって環境を作る人的な要素です。

その人に何が出来るのか、エゴでは無く本当に求めている事をする事が出来たら、穏やかな気持ちで最期を明るく彩れるのでしょうか。

私の言葉や行動がその人にとって最善のものになるように。
今もそんなことを思い悩みながらも人に関わっています。

職業柄、人の人生にかかわるとこのような出来事は日常です。

だからこそ、私たちにできることはその人にとってとても大事な事なんでしょう。

それを忘れずに過ごしていきたいですね。

コメント

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